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吸入薬完全マスター

薬理作用と適応別選択

吸入薬の選択と指導は薬剤師の重要な役割。メプチン・レルベア・シムビコート・テリルジーの4剤を基礎から応用まで体系的に解説し、適切な薬剤選択をマスターする。

はじめに:吸入薬選択の重要性

吸入薬は喘息・COPDの治療において中心的な役割を果たしますが、その選択と指導は複雑です。適応症による用量の違い、薬理学的特性、患者の病態など、考慮すべき要因は多岐にわたります。

本特集で学べること

  • 基本のSABA(メプチン)から最先端のトリプル製剤(テリルジー)まで
  • なぜ喘息とCOPDで適応・用量が異なるのか
  • SMART療法の適応と実践
  • 薬理作用による選択基準

対象薬剤(基礎→応用の流れ)

1 メプチン SABA 発作時の基本薬
2 レルベア ICS/LABA 吸入薬の基本
3 シムビコート ICS/LABA SMART療法
4 テリルジー ICS/LAMA/LABA 3剤合剤

薬剤別詳細解説

💨 メプチン(プロカテロール)

SABA - 発作時の基本薬

基本情報

成分 プロカテロール(短時間作用性β2刺激薬)
適応 喘息発作、COPD急性増悪
効果発現 5-10分(即効性)
作用時間 4-6時間

⚠️ SABA過剰使用問題

  • 年間2本以上 = コントロール不良のサイン
  • 週2回以上の使用で長期管理薬の見直し必要
  • 過剰使用は喘息死リスク増加と関連

薬剤師として、SABA使用頻度の確認は必須です。

処方される患者像

  • すべての喘息患者(レスキュー薬として必須)
  • 高齢者:吸入が困難な場合は薬剤師によるサポートが重要
  • 小児:年齢に応じた適切な指導が必要

🌸 レルベア(フルチカゾン/ビランテロール)

ICS/LABA - 吸入薬の基本と適応の分岐

基本情報

成分 フルチカゾン(ICS)+ビランテロール(LABA)
適応の分岐
疾患 使用可能な規格 理由
喘息 50(小児)/100/200 炎症制御が主→ICS用量調節が重要
COPD 100のみ 高用量ICSは肺炎リスク増大

なぜ適応で用量が異なるのか?

喘息の場合
  • 主病態は好酸球性炎症
  • ICSが治療の中心→用量調節が重要
  • 重症度に応じて50-200μgの幅が必要
  • 小児は成長への影響を考慮し低用量から
COPDの場合
  • 主病態は気道閉塞・リモデリング
  • 気管支拡張が治療の中心
  • ICSは特定の患者(増悪頻回、好酸球高値)に限定
  • 高用量ICS=肺炎リスク増大のため100のみ

処方される患者像

小児喘息(5-11歳)

レルベア50 - 1日1回で服薬管理が簡単

成人喘息

症状に応じて100/200を選択

COPD

血中好酸球≥300/μLで特に有効

シムビコート(ブデソニド/ホルモテロール)

ICS/LABA - SMART療法の革新

基本情報

成分 ブデソニド(ICS)+ホルモテロール(LABA)
特徴 ホルモテロールの即効性(3分)
独自性 SMART療法:維持+頓用の一体化

SMART療法の詳細

SMART = Symbicort Maintenance And Reliever Therapy
シムビコートを定期吸入しながら、発作時にも同じ薬を使用する革新的治療法

用量設定
使用目的 用量 備考
定期吸入 1回1-2吸入、1日2回 朝・夕
頓用吸入 発作時1吸入追加 最大6吸入/回
1日合計 通常8吸入まで 一時的に12吸入可
なぜシムビコートだけがSMART可能?

ホルモテロールは3分で効果発現する唯一のLABA。
他のLABA(サルメテロール、ビランテロール)は効果発現まで15-30分かかるため、頓用には不適。

SMART療法が適する患者

発作頻度の多い患者

月2-3回以上の発作がある場合、SMART療法で増悪予防効果

薬剤管理が煩雑な患者

ICS/LABA+SABAの2剤管理を1剤に集約

用量調節が必要な患者

症状に応じて柔軟に吸入回数を調整可能

💎 テリルジー(フルチカゾン/ウメクリジニウム/ビランテロール)

ICS/LAMA/LABA - 世界初のトリプル製剤

基本情報

成分 フルチカゾン(ICS)+ウメクリジニウム(LAMA)+ビランテロール(LABA)
適応の違い
COPD:100のみ (高用量ICSは肺炎リスク)
喘息:100/200 (炎症制御のため高用量も必要)

なぜトリプル(3剤)が必要か?

COPDの場合
  • 気道閉塞:LAMA+LABAで最大限の気管支拡張
  • 慢性炎症:ICSで炎症抑制
  • 増悪リスク:3剤併用で増悪を最小化

GOLD グループEの重症例が対象

喘息の場合
  • 高用量ICS/LABAでもコントロール不良
  • LAMAの追加で気管支拡張効果増強
  • 特に固定気流制限を伴う重症例

GINA Step 5の最終手段

なぜCOPDは100のみ?

COPD + 高用量ICS = 肺炎リスク

COPDでは高用量ICS(200μg)使用により:

  • 肺炎発生率が用量依存的に増加
  • 特に高齢者、低BMI、重症例でリスク高
  • ベネフィット<リスクとなるため100μgに制限
喘息では高用量も必要な理由

喘息は好酸球性炎症が主体:

  • 炎症制御にはICS用量が直接影響
  • 重症例では200μgが必要
  • 肺炎リスクよりも炎症制御のベネフィットが上回る

処方される患者像

重症COPD
  • GOLD グループE(増悪リスク高)
  • LAMA/LABA無効例
  • 頻回増悪(年2回以上)
重症喘息
  • 高用量ICS/LABA無効
  • 固定気流制限あり
  • ACO(喘息COPDオーバーラップ)

薬剤比較表

薬剤成分比較

薬剤名 成分構成 規格 適応症 投与回数
メプチン SABA 10μg 発作時頓用 必要時
レルベア ICS/LABA 50, 100, 200 喘息(全規格)
COPD(100のみ)
1日1回
シムビコート ICS/LABA 160/4.5μg 喘息, COPD 1日2回+頓用
テリルジー ICS/LAMA/LABA 100, 200 COPD(100)
喘息(100/200)
1日1回

臨床使い分けマトリックス

患者背景 第一選択 理由
小児喘息(5-11歳) レルベア50 + メプチン 1日1回で簡便、低用量ICS
成人喘息(軽症) ICS単剤 + メプチン 基本治療
成人喘息(中等症) レルベア100-200 or シムビコート アドヒアランス vs SMART
喘息(発作頻回) シムビコートSMART 維持+頓用一体化
COPD(軽症) LAMA or LABA単剤 ICS不要
COPD(重症) テリルジー100 トリプル療法
高齢者 レルベア or テリルジー 1日1回で服薬管理が容易

まとめ:吸入薬選択のポイント

吸入薬選択の基本原則

  1. 疾患を正確に把握(喘息 vs COPD)- 治療戦略が根本的に異なる
  2. 重症度を評価 - 軽症から重症まで段階的な薬剤選択
  3. 患者背景を考慮(年齢、吸入力、認知機能)- 薬剤選択に影響
  4. 薬理作用の理解 - ICS、LABA、LAMA、SABAの使い分け
  5. アドヒアランスを重視 - 1日1回 vs 1日2回の選択

薬剤師確認チェックリスト

覚えておくべきポイント

メプチン

基本のレスキュー、過剰使用に注意

レルベア

適応による用量制限の理由を理解

シムビコート

SMART療法の適応患者を見極める

テリルジー

最重症例の切り札、肺炎リスクに注意