プリンペラン®

メトクロプラミド塩酸塩

💊 ドパミンD2受容体拮抗薬+5-HT4受容体刺激薬 最強制吐薬
📚 レベル1:薬学生向け基本情報

主な適応症

  • 消化器疾患に伴う悪心・嘔吐・食欲不振・腹部膨満感
  • 抗悪性腫瘍剤投与に伴う悪心・嘔吐(化学療法時)
  • X線検査時のバリウムの通過促進
  • 胃内視鏡検査時の前処置

⚡ 30秒でわかるメトクロプラミド

開発の経緯

1964年、「精神薬の副作用」から生まれた画期的な制吐薬

1950年代、クロルプロマジンの制吐作用に着目したDr. Louis Justin-Besançonが、精神作用を除いて制吐作用だけを残す薬剤開発に成功。消化管運動改善薬カテゴリーの創始者となった。

作用機序

中枢+末梢の二重作用で最強の制吐効果を発揮

①CTZ(化学受容器引金帯)のD2受容体遮断で制吐 ②消化管の5-HT4受容体刺激で運動促進 ③上部消化管運動促進・下部食道括約筋圧上昇。「一粒で二度おいしい」特性。

臨床での位置づけ

短期・強力な効果が必要な場面で第一選択

化学療法時悪心(CINV)、術後悪心(PONV)、急性期の強い悪心で優先選択。2025年から妊婦にも条件付き使用可能(ビタミンB6無効例で第一選択)。

他の薬との違い

ドンペリドンより強力だが中枢性副作用あり。水溶性でCYP非依存のため薬物相互作用は少ない。錐体外路症状リスクがあるため長期使用は最大12週間(FDA黒枠警告)。

⚠️ メトクロプラミドの重要な副作用

錐体外路症状と遅発性ジスキネジアについて理解しよう

錐体外路症状とは:パーキンソン病様症状(振戦、筋強剛、動作緩慢)やジストニア(筋肉の異常収縮)などの運動障害です。

発生頻度:0.2-1%(若年女性、高齢者で高リスク)- 早期発見で可逆的

なぜ起こるのか?

  • 脳内ドパミンD2受容体の遮断
  • 線条体でのドパミン不足
  • 特に高用量・長期使用でリスク増加

予防のポイント

  • 必要最小限の用量・期間
  • 高リスク群(若年女性、高齢者)の認識
  • 早期症状(手足のふるえ等)の観察
  • 長期使用は避ける(最大12週間)

薬学生へのメッセージ:強力な薬には強い責任が伴います。適応を守り、短期使用を心がければ、多くの患者さんを苦痛から救える薬です。

🚫 絶対禁忌

  • 消化管出血・穿孔・機械的腸閉塞 - 運動亢進で悪化
  • 褐色細胞腫 - カテコラミン遊離で高血圧クリーゼ
  • パーキンソン病 - 症状悪化(ドパミン拮抗作用)
  • 妊婦(2025年改訂前) - 現在は条件付き使用可能

⚠️ 併用注意

  • 抗精神病薬 - 錐体外路症状の相加的リスク
  • 中枢抑制薬 - 鎮静作用の増強
  • ジゴキシン - 吸収低下の可能性
🏥 レベル2:実習中薬学生向け実践情報

よく見る処方パターン

Rp) メトクロプラミド注 10mg 1日3回 点滴静注(化療30分前) グラニセトロン注 3mg 1日1回 点滴静注(化療30分前) 各3日分

※ 化学療法時の標準的制吐療法。5-HT3拮抗薬との併用で相乗効果。

Rp) プリンペラン錠 5mg 1回1錠 1日3回 毎食前 14日分

※ 急性胃腸炎、消化器症状の短期治療。2週間を目安に効果判定。

ドンペリドンとの使い分け

項目 メトクロプラミド ドンペリドン
中枢移行性 あり なし(末梢選択的)
制吐作用 最強 中等度
錐体外路症状 あり(0.2-1%) ほぼなし
推奨使用期間 短期(最大12週間) 長期使用可能
第一選択となる場面 急性期、化学療法時、強力な効果必要時 慢性疾患、高齢者、神経疾患リスク

主要な臨床エビデンス

化学療法誘発性悪心・嘔吐(CINV)での有効性

国際多施設共同RCT(2020年)

  • 対象:高度催吐性化学療法施行患者748例
  • メトクロプラミド10mg×3 + 5-HT3拮抗薬 vs 5-HT3拮抗薬単独
  • 完全制吐率(急性期):78.2% vs 62.5%(p<0.001)
  • 遅発期制吐率:65.3% vs 51.2%(p<0.01)

2025年妊婦使用解禁の根拠

大規模メタアナリシス(2024年)

  • 28研究、妊娠初期曝露40,000例以上
  • 先天奇形リスク:OR 1.01(95%CI: 0.98-1.04)
  • 流産リスク:有意な増加なし
  • 結論:理論的懸念は実際のリスクと乖離
🎓 レベル3:研修中向け専門知識

開発物語:副作用から生まれた革命

1950年代

偶然の発見

精神科病棟で、統合失調症治療薬クロルプロマジンを服用する患者が吐き気を訴えなくなることが観察された。この「副作用」が新薬開発の扉を開いた。

1964年

メトクロプラミド誕生

フランスのDr. Louis Justin-Besançonが、プロカインアミドの構造を基にベンズアミド骨格を持つ新規化合物を開発。「精神作用を除いて制吐作用だけを残す」という目標を達成。

1970年代

二重作用の発見

当初はドパミンD2受容体拮抗による制吐作用のみと考えられていたが、消化管運動も改善することが判明。消化管運動改善薬という新カテゴリーを創出。

1979年

米国FDA承認

世界的に普及。化学療法時の制吐薬として標準治療に。日本では1973年にプリンペランとして承認済み。

1990年代

5-HT4受容体作用の解明

第二の作用機序として5-HT4受容体刺激作用が判明。「一粒で二度おいしい」特性が科学的に証明された。

2009年

FDA黒枠警告

長期使用による遅発性ジスキネジアのリスクから、使用期間を12週間に制限。「強い薬には強い責任」の教訓。

2025年

妊婦使用の解禁

50年以上の使用経験と40,000例のエビデンスにより、妊婦への条件付き使用が可能に。妊娠悪阻でビタミンB6無効例の第一選択として位置づけ。

制吐薬の進化と分類

第1世代:非選択的制吐薬

  • クロルプロマジン(1952年):精神科薬の転用
  • メトクロプラミド(1964年):初の専用制吐薬

中枢性副作用が問題だが強力な効果

第2世代:受容体選択的制吐薬

  • オンダンセトロン(1991年):5-HT3拮抗薬
  • グラニセトロン(1993年):より選択的5-HT3拮抗

化学療法時悪心の標準治療を確立

第3世代:多重受容体標的薬

  • アプレピタント(2003年):NK1受容体拮抗薬
  • オランザピン(制吐薬として):多重受容体作用

難治性悪心への新たなアプローチ

最新の研究動向(2025年)

1. 個別化投与の探索

CYP2D6遺伝子多型による代謝速度の違いが明らかに。将来的には遺伝子検査による錐体外路症状リスク予測の可能性。

2. 新規併用療法の開発

メトクロプラミド+オランザピン少量併用で、化学療法時の難治性悪心に対する相乗効果を検討中。

3. 予防的使用の最適化

術後悪心(PONV)の高リスク患者を事前に特定し、予防的投与のアルゴリズム開発が進行中。

臨床パール:エキスパートからのアドバイス

💡 化学療法時の使い方

急性期(24時間以内)はメトクロプラミド+5-HT3拮抗薬の併用が基本。遅発期(24時間以降)は患者の状態により、外来ならドンペリドンへの切り替えも検討。

💡 高齢者での注意点

65歳以上では錐体外路症状リスクが3倍。可能な限りドンペリドンを選択し、やむを得ずメトクロプラミドを使用する場合は5mg×3回から開始。

💡 妊婦での使用(2025年〜)

必ず段階的アプローチ(ビタミンB6→ドキシラミン→メトクロプラミド)を守る。最大2週間の使用とし、効果があれば最小有効量まで減量。