漢方薬特集

消化器系の漢方薬完全ガイド

お腹の不調を体質から改善する8つの処方

2025年7月9日更新 読了時間:約15分

消化器症状への漢方アプローチ

現代社会では、ストレス、不規則な食生活、運動不足などにより、多くの人が消化器症状に悩まされています。 西洋医学では症状を抑える対症療法が中心ですが、漢方医学では「脾胃(消化器系)」の働きを整え、 体質から改善することを目指します。

漢方薬選択の3つのポイント

  • 主症状の見極め:腹部膨満、食欲不振、下痢、胃痛など
  • 体質(証)の判断:冷え(寒証)か熱感(熱証)か、虚弱(虚証)か充実(実証)か
  • 随伴症状の確認:全身倦怠、ストレス、むくみなど

症状別 漢方薬選択フローチャート

🎈 腹部膨満・お腹の張り

冷えて張る・術後 大建中湯
食べ過ぎで張る 平胃散
ストレスで張る 半夏瀉心湯

🍽️ 食欲不振・胃もたれ

胃の動きが悪い 六君子湯
全身疲労を伴う 補中益気湯
ストレスによる 半夏瀉心湯

💧 下痢・軟便

水様性・急性 五苓散
冷えによる慢性 真武湯
ストレス性 半夏瀉心湯

😣 胃痛・胸やけ

冷え・ストレス 安中散
みぞおちのつかえ 半夏瀉心湯
食後の痛み 平胃散

主要4処方の詳細解説

大建中湯(ダイケンチュウトウ)ツムラ100番

温中剤

「お腹を温めて動かす」腹部膨満の特効薬

術後の腸管機能改善でエビデンス豊富。冷えによる腹部膨満、腸の動きが悪い時の第一選択。

こんな時に効果的

  • ✅ お腹が冷えて張る
  • ✅ 腸がゴロゴロ動く感じ
  • ✅ 術後の腸管麻痺
  • ✅ 高齢者の慢性便秘

作用メカニズム

CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)による腸管運動促進と血流改善。 現代医学的にも作用機序が解明され、ERASプロトコルにも組み込まれている。

エビデンス

術後イレウス予防研究(DKT-01 study):初回排ガスまで20時間短縮、在院日数2.5日短縮

使い方のポイント

  • 用量が多め(15g/日)だが、膠飴が入っていて甘く飲みやすい
  • 温かいお湯に溶かして服用すると効果的
  • 術後は翌日から開始可能

六君子湯(リックンシトウ)ツムラ43番

補気健脾剤

「食欲ホルモンを増やす」機能性ディスペプシアの切り札

グレリン分泌促進作用が科学的に証明。PPI無効の機能性ディスペプシアにも有効。

こんな時に効果的

  • ✅ 食欲がない・すぐ満腹になる
  • ✅ 食後の胃もたれ
  • ✅ みぞおちの不快感
  • ✅ やせ型で胃腸が弱い

作用メカニズム

グレリン(食欲ホルモン)の分泌促進と受容体感受性増強。 世界初の発見として注目され、Nature系論文にも掲載。

エビデンス

G-PRIDE study:機能性ディスペプシアで症状改善率52% vs プラセボ35%

使い方のポイント

  • 食前30分の服用が理想的
  • 効果発現に2-4週間かかることを説明
  • PPIとの併用で相乗効果

五苓散(ゴレイサン)ツムラ17番

利水剤

「水分の偏在を整える」水の万能薬

アクアポリン調節作用で水分再配分。急性胃腸炎から慢性硬膜下血腫まで幅広い適応。

こんな時に効果的

  • ✅ 水様性下痢(ノロ・ロタ)
  • ✅ 二日酔い
  • ✅ 口渇があるのに尿が少ない
  • ✅ 低気圧頭痛・むくみ

作用メカニズム

アクアポリン(水チャネル)の調節による水分再配分。 2003年ノーベル賞のアクアポリン研究と関連。

エビデンス

ノロウイルス胃腸炎:下痢期間1.5日短縮、点滴回避率70%

使い方のポイント

  • 急性期は頻回投与(初回5g、以後2.5gずつ)
  • 坐薬としても使用可(嘔吐時)
  • スポーツドリンクに溶解も可

補中益気湯(ホチュウエッキトウ)ツムラ41番

補気剤

「医王湯」全身の元気を補う

消化器症状と全身倦怠を同時に改善。免疫賦活作用で易感染性にも有効。

こんな時に効果的

  • ✅ 疲れて食欲がない
  • ✅ 気力が出ない・だるい
  • ✅ すぐ風邪をひく
  • ✅ 慢性下痢(気虚性)

作用メカニズム

NK細胞活性化による免疫賦活とミトコンドリア機能改善。 「補って上げる」ことで全身の気を充実。

エビデンス

慢性疲労症候群:疲労VAS 45%改善、活動量30%増加

使い方のポイント

  • 最低1ヶ月は継続(体質改善には3ヶ月)
  • 朝起きやすくなった、風邪をひきにくくなったが効果の目安
  • 実証の人には不適

その他の重要処方

半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)ツムラ14番

調和剤

ストレスで胃腸を壊しやすい人に。みぞおちのつかえ、下痢と吐き気が同時に起こる時。 抗がん剤の下痢予防にもエビデンスあり。

ストレス性 心下痞 寒熱錯雑

安中散(アンチュウサン)ツムラ5番

温中止痛剤

冷えとストレスによる胃痛の特効薬。胸やけ、呑酸にも効果的。 牡蛎による制酸作用もあり、即効性が期待できる。

胃痛 冷え 即効性

平胃散(ヘイイサン)ツムラ79番

消導剤

食べ過ぎ・飲み過ぎの特効薬。腹部膨満、ガスが溜まる時に。 急性使用に適し、1-3日の短期使用で十分な効果。

食べ過ぎ 急性 安価

真武湯(シンブトウ)ツムラ30番

温陽利水剤

極度の冷えと虚弱による慢性下痢に。全身倦怠感も改善。 附子含有のため少量から開始。高齢者の慢性下痢に有効。

腎陽虚 慢性下痢 極度の冷え

消化器系漢方薬 比較一覧表

処方名 主な適応 体質(証) 特徴的症状 薬価/日
大建中湯 腹部膨満・術後 虚証・寒証 冷えて張る、腸の蠕動不穏 約128円
六君子湯 食欲不振・FD 虚証 胃もたれ、早期飽満感 約180円
五苓散 水様性下痢 虚実不問 口渇+尿不利 約111円
補中益気湯 全身倦怠+消化器 虚証・気虚 疲れて食欲ない 約197円
半夏瀉心湯 ストレス性 中間証 みぞおちのつかえ 約172円
安中散 胃痛・胸やけ 中間証・寒証 冷えで悪化 約68円
平胃散 食べ過ぎ 実証〜中間証 急性の膨満 約59円
真武湯 慢性下痢 虚証・腎陽虚 極度の冷え・倦怠 約101円

よくある質問

Q. 西洋薬(胃薬、整腸剤)と漢方薬は併用できますか?

多くの場合、併用可能で相乗効果も期待できます。例えば:

  • 六君子湯+PPI:機能性ディスペプシアで相乗効果
  • 大建中湯+メトクロプラミド:術後の腸管運動改善
  • 五苓散+補液:急性胃腸炎の治療

ただし、必ず医師・薬剤師に相談してください。

Q. 効果が現れるまでどのくらいかかりますか?

症状と処方により異なります:

  • 即効性のあるもの:五苓散(数時間)、安中散(30分〜)、平胃散(1-2日)
  • 1-2週間:大建中湯、半夏瀉心湯
  • 2-4週間:六君子湯、補中益気湯(体質改善系)

Q. 冷え性ですが、どの漢方薬がよいですか?

冷えのタイプと症状により選択します:

  • 腹部の冷え+膨満:大建中湯
  • 冷え+胃痛:安中散
  • 極度の冷え+下痢:真武湯
  • 全身の冷え+疲労:補中益気湯

Q. 妊娠中でも使える漢方薬はありますか?

比較的安全とされるものもありますが、必ず産婦人科医に相談してください:

  • 比較的安全:五苓散(妊娠悪阻にも使用)
  • 慎重投与:大建中湯、六君子湯、安中散など
  • 使用を避ける:附子含有の真武湯

まとめ:消化器系漢方薬の使い分け

🎯 症状別の第一選択

  • 腹部膨満:大建中湯(冷え)、平胃散(食べ過ぎ)
  • 食欲不振:六君子湯(胃もたれ)、補中益気湯(全身疲労)
  • 下痢:五苓散(急性水様性)、真武湯(慢性・冷え)
  • 胃痛:安中散(冷え・ストレス)、半夏瀉心湯(みぞおちのつかえ)

💡 選択のコツ

  • 冷えの有無を確認(温める系 vs 利水系)
  • 体力の程度を判断(虚証 vs 実証)
  • 急性症状か慢性症状か
  • ストレスの関与の有無

専門医からのメッセージ

消化器系の漢方薬は、西洋医学では対応困難な機能性消化管障害に特に有効です。 最近では作用機序の科学的解明も進み、エビデンスも蓄積されています。 症状だけでなく、体質(証)を考慮した選択により、根本的な改善が期待できます。

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